鬱状態となって現れでた彼女の行き詰まりは、劇的に改善されていくのであるが、鬱から抜けでたという喜びのなかで「自己満足」がその後数年にわたり続くこととなる。自己満足とは、自分自身は満足するものの他の人には思いや行動が向かない状態のことである。
そしてまた次第に、彼女は内面に目を向けるという方法によって教師としてまた援助者としての「力(power)」をつけていきたいと思うようになっていくのであった。まさにこの状態は、比較と競争の中で「力」を求めるという、あくまでも自己中心の世界といえよう。意識世界でいうなら、「生存本能(survival)」「神経反応(passion)」「エゴ/マインド(ego/mind)」ということになろう。元気を取りもどして教師としての活動をしていても、彼女の長年の「ものの見方」と他の人や物事に対する「姿勢」はさほど変えられてはいなかった。ただ彼女の心の中では、ある意味で大きな「地殻変動」のようなことが起き続けていたのである。
その地殻変動とは、自分自身のなかであたかも冷凍状態であったような肯定的また否定的な感情が溶け出していくことであり、さまざまな思い込みに対する再検討と再構築が知的レベルと情緒レベルにおいても起きていたと思える。そして、自分自身にとどまらず他の人たちとのかかわりやその時々にもつ感情や思いも変えられ続けていたのである。(つづく)